父にとっての『バー』

『バー』という言葉は間違いなく大人の響きです。薄暗くちょっと危ない、本当は全然危なくなんかなくても、色んな人間模様を垣間見ることが出来る場所というイメージです。私は子供の頃に父が通っていたその場所に一度だけ連れて行ってもらったことがあります。なぜ一緒にそんなところに行ったのかは覚えていません。というより、私もあえて父に聞かなかったので今だに謎なんです。でも、子供から見たその世界は、何がそんなに良くて大人たちが集うのか全く理解のできない空間でした。
今、読んでる小説の舞台は『バー』です。主人公は『バー』のオーナーで、その店をオープンしたいきさつは波風が立つ人生の流れでそうなったという、偶然かつ必然の賜物です。そして、お客はというと、いかにも『バー』のお客という感じです。みんな、なにかしら秘密を持っていたり、逃げることができない自分の境遇の悩みを抱えていたりと、様々な人生を生きています。そんな生き様が見え隠れするのが『バー』なんです。お客がそこに求めているのは安らぎなのか非現実なのか……それも様々です。大人になった今、その小説を読んでいると、父が私を連れて行ったことにもきっと何か父なりの思いがあったんだろうなって思います。今さら聞こうとも思いませんけどね。

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